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情弱を実感した瞬間:情報格差が経済格差を生む構造

AI開発の現実 公開: 2026.03.10
#情報格差 #経済格差 #詐欺対策

あの日のタクシー乗り場で

寒さが骨身に染みる冬の夕暮れ、突然空から白い結晶が舞い始めた。駅前のタクシー乗り場で、私は肩を縮めながら次のタクシーを待っていた。

雪が降り出したせいか、タクシーで帰ろうとする人が列をなしていた。数台が来ては去り、徐々に私の番が近づいてきた。しかし二台ほど人を乗せると、タクシーの姿はぱったりと見えなくなった。

私の前に並んでいた老婆が小さなため息をついた。

「タクシー、来ないわねぇ。これじゃあ待っていても無駄かもしれないわ」

この辺りでは「GO」というステッカーを貼ったタクシーをよく見かける。私はスマートフォンを取り出し、GOのアプリを起動した。画面には確かに駅に向かって走っているタクシーの姿が映っていた。あと1、2分で到着する。

「大丈夫ですよ。もうすぐタクシーが来ますよ」と私は老婆に声をかけた。

しかし老婆は眉をひそめて首を振った。

「そんなことないわよ。タクシーなんて、これじゃ全然来ないわよ」

そう言うと、老婆は列の先頭から離れ、駅の方へ歩き始めた。

「もうすぐ来るのに…」

そう思った瞬間、曲がり角からタクシーのヘッドライトが見えた。私は反射的に老婆の方を振り返り、声をかけようとした。しかし彼女の背中はすでに遠ざかり、タクシーへの関心は完全に失われていた。

こうして私は、ほとんど待つことなくタクシーに乗り込むことができた。暖かい車内に身を沈めながら窓の外を見る。雪は一層激しく降り始め、老婆の姿はすでに見えなくなっていた。

「情弱ってこういうことか」と思った。同じタクシー乗り場に立っていても、スマホアプリの情報があるかないかで、行動がまったく変わる。私にとってタクシーが来ることは確定した事実だったが、老婆にとってはそれは単なる予測にすぎなかった。情報格差とは、単に知っているか知らないかだけでなく、確実性に対する感覚の違いをも生み出す。

58歳の私自身、一般的には「情弱世代」と分類されがちだ。にもかかわらず、このケースでは情報を持つ側だった。年齢で情報リテラシーを決めつけることはできない。ただし、還暦近い世代でAIモデルを開発したり情報技術を駆使している人間は、少数派ではある。

情報格差が経済格差を生む

情報は直接的に経済力に結びつく。この情報格差は「特殊詐欺」や「投資詐欺」の被害分布に如実に表れている。

情報弱者は最新の詐欺手口を知らないため、同じ手口でも騙されやすい。オレオレ詐欺や還付金詐欺、「必ず儲かる」という投資話に騙されるのは、詐欺の最新トレンドや見破り方に関する情報へのアクセスが限られているからだ。

詐欺師の間では「被害者リスト」、俗に「カモリスト」が高額で売買されている。一度騙された人が別の手口でも再び騙されやすいという悪質な経験則に基づくものだ。一度騙された被害者は、情報弱者としてのレッテルを貼られ、次々と新たな詐欺のターゲットにされる。こうして詐欺被害が連鎖し、情報格差と経済格差の悪循環はさらに深まっていく。

法的には問題ないが倫理的に問題のあるビジネスモデルも、この情報格差につけ込んでいる。ワンルームマンション投資がその典型だ。宅建業者として言うが、複雑な契約条件や将来リスクに関する情報を持たない購入者が、「資産形成」の美名のもとに実質的な経済的負担を背負わされる構造は、情報の非対称性がもたらす不公正そのものだ。

AIは情報弱者の防波堤になるか

AIは情報格差の解消に寄与する可能性がある。特に「被害者の連鎖」を断ち切る力はAIにこそある。一度詐欺に遭った人が、その後の不審な勧誘をAIに相談することで、繰り返しの被害を防げる。感情に左右されず、秘密を守り、気兼ねなく何度でも質問できるAIは、詐欺師のターゲットにされやすい情報弱者にとって強力な防波堤となり得る。

不動産投資や金融商品の契約前にAIに内容を分析させれば、専門家と素人の間の情報格差を縮小できる。複雑な契約書の隠れたリスクや、説明されなかった不利な条件を指摘させることができる。

ただし、AIは万能ではない。AIを使いこなすには「何を聞くべきか」「結果をどう評価するか」という判断力が必要だ。道具が手に入っても、使い方を知らなければ意味がない。情報格差の本質的な解消には、AIの活用能力そのものを底上げする教育が不可欠だ。

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