DeepSeekに既視感を覚えた理由:知的財産権と弱肉強食の現実
DeepSeek問題の一連の記事を読んだとき、私の脳裏にはかつて自分が経験したできごとが浮かび上がった。怒りではない。「またか」という諦観だった。
DeepSeekと蒸留の疑惑
DeepSeekはOpenAIのAPIを通じて大量のデータを抽出し、それを基に独自モデルを訓練した疑いが持たれている。約560万ドルという少額の開発費で競合モデルに匹敵する性能を実現した。マイクロソフトのセキュリティ研究チームが2024年秋にデータ抽出の痕跡を発見し、米国海軍は使用を全面禁止、イタリアはアプリストアでの配信を停止させた。
技術を効率的に「学習」したのか、「盗用」したのか。この境界線の曖昧さは、私にとって既視感そのものだった。
世界初のアプリを作り、模倣品に潰された
1996年、私は世界初のホバー検索辞典アプリを開発した。スクリーン上のあらゆる文字にマウスをかざすだけで、読み取って辞書を引いたり文章を翻訳するツールだ。日本ではソニーVAIO、富士通、東芝Dynabookにプリインストールされ、中国では連想グループ(現Lenovo)のパソコンに搭載された。台湾ではCOMPUTEX TAIPEIのファイナリストに選出された。
しかし、台湾で二つの深刻な権利侵害に直面した。
一つは、現地企業による技術とデータの無断解析と模倣品の製造販売だ。私たちが解析の証拠を添えて弁護士を通じて内容証明を送付すると、その企業は証拠を逆手に取って私たちを著作権侵害で刑事告訴するという、極めて悪質な対抗手段を取ってきた。被害者が正当な権利を主張したら、加害者から告訴される。結果的に不起訴となったが、この対応だけで大きな時間と労力を奪われた。
もう一つは、信頼関係に基づいて契約を結んでいた台湾の販売代理店による背信行為だ。契約上の義務に反して許可されていない地域での無断販売を続け、約1,000万円の損害を発生させた。
中国でも技術を盗用した模倣品が発売された。その製品は欧米出版社の辞書データを無断使用していたが、出版社に確認すると「中国企業とは関わりたくない」と消極的な態度を示す一方で、逆の立場では厳格な権利主張を行うという二重基準的な対応だった。
画期的な技術開発にもかかわらず、最終的に会社を清算し、個人破産に追い込まれた。対して、模倣品を製造した企業の経営者は、スティーブ・ジョブズの黒いタートルネックまで模倣しながら、今では世界的な家電・スマートフォンメーカーへと成長を遂げている。
弱肉強食
DeepSeekの問題は、私の個人的な昔の出来事と構造的に同じだ。技術を「効率的に活用」した側が成長し、オリジナルを作った側が割を食う。欧米では個人の権利や知的財産権の保護が重視される一方、アジアでは知識の共有や集団の利益が重視される文化がある。しかし、そんな文化論で片づけられる話ではない。
結局のところ、強者がルールを決め、経済力が正義を左右するのが現実だ。
日本人はもっとこのことを理解すべきだ。いつまでも「正しさ」や「善意」に頼っていては、結局は搾取される側に回るだけだ。世界は、そんなに甘くない。